「父と子」(ツルゲーネフ)

以前「はつ恋」を紹介したロシアの文豪ツルゲーネフの代表作に数えられる一つです。

地主のニコライ・キルサーノフが大学から帰ってくる息子のアルカージーを迎えるシーンから始まります。彼の友人バザーロフは無神論者のニヒリストであり、バザーロフやアルカージーの様々な人物・世代間での言葉のやりとりは後述する当時のロシアの変革を訴えるインテリ層に大きな反響を残しました。
バザーロフはある婦人と恋に落ちますが、感染症にかかって命を落とします。死の間際にいままであいまいだった告白をし、彼女とキスをしたまま息絶えました。
ニコライ、アルカージーは別のそれぞれ姉妹である女性と結婚し、バザーロフの墓には母が寂しさと愛おしさを抱えて通います。

この作品の「父たちの世代」は、デカブリストの乱の失敗につづくニコライ一世の反動政治の時代で、デカブリストの後継者である青年貴族や大学生たちは理論的な思索へ向かいました。
この作品の「子の世代」は、ニコライ一世の弾圧政治が終わり、自由主義的な傾向を持つアレクサンドル二世が即位して、国民精神が高揚し行動へ走りました。
この作品のバザーロフは、ペチョーリン(レールモントフ「現代の英雄」の主人公)が意志はあるが知識がなく、ルージン(ツルゲーネフ「ルージン」の主人公)が知識はあるが意志がなかったのに対し、意志も知識もある、と評論家ピーザレフに称されています。ロシアを変えることになる革命的知識人の先駆者としてツルゲーネフが作り上げたこのバザーロフの人物像は、大きな意味を持ったのです。

小説はいろいろありますが、大きな気概を持った小説、というのは作り手にも読み手にも大きな意味を与える一つの小説の素晴らしさだと思った。

死にかけたバザーロフの愛していた女性に対する「愛は―フォームです」というのにははっとした。最後の墓の描写と合わせて、良い作家はおしなべて最後が上手い。読み手に意味を残してくれる。

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