母が、私を困らせた。
母…パセリちゃん、早く、窓の所に連れてって!
私…えぇ???
そこに、看護師さんが入って来て、
看護師…あら、窓開けちゃダメですよ。
閉めますよ。
なんか、助かった。
私…お母さん、怒られちゃったよ。
窓開けちゃダメですよ。
閉めますよ。
看護師さんの言い方を真似てみた。
母は、クスッと笑った。
母…パセリちゃん。
私…お母さん、なぁに。
私は、両手で、母の手を握った。
母…楽しかったぁ。ありがとう。
言いながら、母は目を閉じた。
私…お母さん、ダメよ。明日、○○さん(母の実娘)来るのよ。今すぐに呼ぶから…。
お母さん、ダメよ。お願い!逝かないで!!
母…もういいの。間に合わない。ありがとう!
握っていた母の手は、冷たく、硬くなっていった。
ナースコールをした。
私…母の様子がおかしいんです。急いで来て下さい。お願いします。
看護師さんは、しばらくしてから来た。
その間、私は、必死に、母に呼びかけていた。
すると、母の手は、すうっと、また暖かく、柔らかくなった。
看護師…どうしました。
計器には、異常は見られませんでしたよ。
え…???
私…今日は、全然寝てないんです。
オプソも、飲んだのですが…。
看護師…点滴を変えますね。
母は、ぼーっと天井を見ている。
私は、母の手を、ずっと握っていた。
時々、母は、軽く握り返して来た。
義妹が来た。
ワープして来たかのように早かった。
これも、神が手助けしてくれたのかも…。
義妹…お母さん!
母…○○ちゃん、お家に連れてって!
お家に帰りたい。
義妹…お母さん、そうだね。帰ろうね。
母…じゃ、すぐに連れてって。
義妹…え? お母さん、無理だよ。
この後がスゴイ。
お母さんは母親になった。
母…。
帰ろう。と言ったくせに、連れて帰ってくれないの。
帰れないのに、帰ろうなんて、嘘ついたの。
お父さんも、お母さんも、嘘が一番嫌いなの知ってるでしょう。
なんで、あなたは、そういう嘘を平気で言うの。
帰ろうって言ったんだから、早く連れて帰りなさい。
義妹…そんな事言ったって、お母さん、歩けないでしょう。
母…おぶって行きなさいよ。
そんなやり取りが30分も続いた。
さっき、あの世に逝きかけた人とは思えない迫力だった。
ただ、その間、血痰が、今までこんなにひどい事なかった。というほど、沢山出た。
すごい勢いで出まくる血痰を飛ばしながら、
母は、娘にお説教をしていた。
私は、本来の母をみたような気がした。
私は、血痰を、しきりに、ティッシュで拭いてあげていた。
あっという間に、ティッシュの山が出来た。
いたたまれなくなって、義妹が席をはずした。
私…お母さん、あのね。
お母さんは、まだ、お家に帰る事は出来ないのよ。
もう、夜だから、寝ましょう。
母…帰れないの?
私…うん、お母さん、夜だからね、寝ましょう!
お母さんは、スゴイ人だよ。
どこに、こんな力が残っていたの。
神様が、お母さんに下さった、最後の一日。
なんか、凄すぎだよ。
お母さん。
ハーフさん、
お母さんは、病院のベッドで死にたくはなかったのでしょうね。
最後の最後まで、お家に帰りたいと言っていたお母さん。
なんか、せつないです。