肺ガンの母[おばあちゃん] 最終話

母は、ベッドの頭部分を起こして、座椅子に寄り掛かるような状態で話をしていた。

私…お母さん、ベッド、倒しましょうね。

母…パセリちゃん、身体を起こしてちょうだい。座りたいの。

戻って来た義妹と、身体を起こして座らせた。

母は、幻想の世界に入った。

母…皆様。わがままな私に、いろいろとありがとうございました。
あら、□□も来てくれたの、ありがとう。

△△さん、いろいろな所にお出掛けしたわね。楽しかったわぁ。ありがとう。

親戚、友達、母に関わりのある人達みんなが、母には見えていた。
その一人ひとりに、丁寧にお礼を言っていた。

私…お母さん！皆さんも、お母さんに、ありがとう！言ってるよ。
楽しかったよ。って言ってるよ。
良かったね。
さぁ、もう寝ましょう！

母は、満足そうにうなずくと、

母…皆さんも、どうぞ、休んで下さい。
お風呂に入る人は入って、どうぞ、お休みになって下さい。
お休みなさい。

母は、やっと、落ち着いた。
と言っても、血痰の量は半端じゃない。
飛ばしまくり。
オエオエしながら、母は話しているのだ。

私…じゃ、お母さん、私、明日仕事だから、帰るね。また来るね。
○○さん（義理）いるから、大丈夫だよね。
お休みなさい。

私は、母の左手を両手で握った。
母の体温が伝わってきた。
母は、心細げに頷いただけだった。

これが、母との最後となった。
そういう予感を感じてはいたが
私自身がひどく疲れていた。
昼食も夕食もとってなかった。
私は、一日、母との時間を過ごしたのだから、後は、義妹が母と水入らずの時間を過ごす番なんだ。
母の事が気になってならなかったが、自分に言い聞かせながら、
PM11時
私は、コンビニのおにぎりを食べながら、家に帰った。

家に着き、お風呂に入ると、すぐに寝た。

ほんの１時間も寝ない、日付も替わった
AM３時
義妹から電話。

義妹…パセリさん、今、お母さん、酸素マスク付けられたの。
あ、今、お母さん、亡くなった。

私と主人は、急いで病院に向かった。

私…ねぇ、あなた、見て。満月よ。
お母さん、かぐや姫みたいだね。
Ｈ22年９月22日でした。

母は、とても綺麗な、優しい顔をしていた。

私…お母さん、手も、頬っぺたも、冷たいよ～。
お母さん、よく頑張ったね。
お母さんは立派だったよ。

お母さん、あのね。
お彼岸に亡くなった人は、ご先祖様の霊に見守られて、成仏できるんだって。
お母さんが言っていたお迎えって、本当だったんだね。


母は、遺骨となって、やっと栃木の家に帰って来れた。
49日の法要まで、
母の遺骨は、生前いつも座っていたソファーにいた。

お母さんが一番帰りたかった場所だよ。

なんかね…
私のお金で買ったソファーだからね。
って、お母さんの声が聞こえてきそうだよ。

私…はいはい、お母さん、使わせてもらってますよ。

お母さんが栃木に来て、私、
いっぱいいっぱい、お母さんに思い出作ってあげたいって思ったんだぁ。
だけどね、私の方が、お母さんから、いっぱいいっぱいの思い出もらったよ。
楽しかったよ。
ありがとう！
お母さん。