文房具屋さ～ん。

あのね、うちの近くに車も通行できない昔ながらの商店街がある。

この商店街に、俺が小学生の頃、２軒の文房具屋さんがあった。


１軒は若いお姉さんがお店にいて、流行りのキャラクター系の文房具とか、たくさん置いてあってスゴい流行ってた。

俺もいつも友達とこの文房具屋さんに行ってた。


もう１軒は、痩せ型でいつも眉間にシワを寄せてる、怖～いオバサンがやってた。

置いてある品物も、定番の地味～な物ばかり。

店内も狭いし薄暗いし。

でも、たま～にそういう文房具も必要な時があって、このお店に行って

入って２、３分見てると、オバサンが木の椅子に座ったまま

『買うのっ！買わないのっ！』

って怒る。

ヤンチャだった俺も、このオバサンだけは超怖くて、いつも買わないで、そそくさと出てきちゃう。

で、友達と子供特有の捨て台詞を聞こえないように言う。

『なんだよ、ク〇バ〇ア』

その頃、ヨーヨーがスゴい流行ってて、なぜかこの文房具屋さん、オモチャ屋さんよりもたくさんヨーヨーが置いてあった。

しかも入り口近くに掛けてあって、外からでも見える。

俺、誰も持ってないやつが欲しくて、このお店に一人で買いに行った。

外から見て、先に選んで怒られる前に買う作戦。

（あ、あの黒いのカッコイイ♪）

お店に入って、マッハでヨーヨー取って、すぐにお金を払って、お店を出た。

滞在時間、20秒ぐらい。

（ヤッター♪）

って、思いながらヨーヨーよく見たら

黒じゃなくて紺だった。

でも、もう、取り替えてなんて言えないし。

仕方ないから紺のヨーヨーしながらお家に帰った。

ここでまともに買い物をした記憶はこの一回だけ。





そして今、流行ってたお姉さんのお店は無くなって、オバサンのお店だけ残ってる。

たまに前を通ると、薄暗い店内にオバサンのシルエットが見える。

今ならあの頃言えなかった一言が言えるかも。


『今選んでるの！ちょっと待って！』って。



でも、オバサン（今はおばあちゃん）

狭い間口のお店の奥に座って

四角く小さく切り取られた、移り行く商店街の風景と、行き交う人達をず～っと何十年も眺めてるんだろうな～。

（あら？今通ったの、ヨーヨー買って行った子じゃないか、大きくなったもんだね～）

とか思ってくれてるかな。


『買うのっ！買わないのっ！』


アハハハハ。







長生きしてね