青田が校門を出る頃すでに日は暮れていた。
ここから駅までは10分とかからない。田んぼに囲まれた
一角なので蛙の鳴き声がした。
もう夏なんだと彼は思った。
小川に落ちないようにと見渡したとき何かが光った。
蛍だった。よく見るとまるで天の川を見上げた時のように
その数が増してきた。
田舎の中学校に赴任して良かったという思いが
じっと湧いてきた。
「へー珍しいね。」後ろから声をかけてきた男がいた。
有働教諭だった。大きな顔に髯と強い眼光、空手部出身
だと言ってた。
「そうですね。こういうのを生徒と共有できたらいいですね。」
「あんたは意外とセンチメンタルだな。」
「まあ百人百様だからそれもいいがね。」
つい先だってまで青田は東京の小さい会社で働いていた。
それは、誰にでもできる事務の仕事で彼は自分で
そこに試験を受けて入ったくせに、自分が辱められていると感じていた。
なんでコピー焼きなんかしなくちゃいけないんだ。
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