路地ルール。

ちっちゃい頃は、俺んちのある、この路地に、同じくらいの年の子供がたくさんいて、いつも一緒に遊んでた。


遊ぶっていっても、路地は超せまいから、チョークと石ころだけで遊べる『ケンパ』とか、あとは道具も何もいらない遊びばっかし。


で、結構はやってたのが、鬼を一人決めて、鬼がしゃがんで片足だけ伸ばして、その周りをみんながケンケンをして

鬼の決めたお題目を言いながら、伸ばした足を飛び越えるってやつ。


お題目は子供だから、簡単。


『動物の名前』とか『お魚の名前』とか。


ケンケンはずっとしてなきゃダメで、両足を付いたり、お題目を言えなかったら負けで、鬼を交代、みたいな。



で、この遊びをしてた時に、鬼が『くだものの名前』ってお題目を出した。


最初は簡単、みんな定番のくだものを言って、鬼の足を飛び越えてグルグル回る。


で、だんだん思いつくのが無くなってきた時に、一番年下の子が、スゴい頑張って考えて




『ザボン』


って言った。



そしたら、ザボンのどこがどう面白かったのか知らないけど、みんな超笑って、両足付いちゃった。


っていうか、もう、立ってられないぐらい笑った。



で、次からはもう、鬼がちっちゃな声で



………ｻﾞﾎﾞﾝ


とか言うと、またみんな笑って両足付いて終わり、みたいな。


もう、ゲームにならなかった。




そしたら、一番年上の子が


『もう、ザボンって言うの禁止だからな！』


って、路地ルールを決めた。



これは、この遊びの時だけじゃなくて、他の遊びをする時も『ザボン』で笑わすのは無し、っていうルールだった。


この一番年上の子がリーダーだったから、このルールは絶対だった。





それから、月日が流れて、だんだんみんな一緒に遊ばなくなっていった。




でも、あのルールはあの時のまま。











そして今、あの頃遊んでいた子供達の中で、この路地に残っているのは俺だけ、みんなもういない。



だから…










俺がリーダーだ。





そして今日…


３５年以上ぶりに俺が……











『ザボン』解禁。




これで今日からこの路地で胸を張って叫べる。





『ザボーーーンッ！！』


って。










うん、多分これ、通報されるな。