生還。

あのさ、子供って無敵だよね。


時々、後先考えないで、とんでもないことをしでかしたりするし。



俺が小学校の低学年の時、ちょっとしたことで兄貴とケンカした。

もう、ケンカしても兄貴には絶対に勝てないから、悔しくてしかたなかった。


いつもなら俺が半ベソかいて終わりなんだけど、この日はどうしてもガマンできなかった。


で、兄貴がヘラヘラ笑いながら階段を下りようとした。


うちの階段、せまくて、結構、急な階段で全部で１５段あるんだけど。


で、兄貴を追いかけていって、一歩踏み出しかけてた兄貴の背中を、思いっきり突飛ばした。



そしたら兄貴が『うわっ！』って言って前のめりに落ちた。




と思ったら、前のめりの態勢のまま、もう、完全に頭から落ちてもおかしくない勢いで


必死に無意識に２段あかし、３段あかしで飛ぶように下りていった。


なんか、ガニ股で、歌舞伎の片足飛びの両足バージョンな感じだった。



それで最後の３、４段をジャンプして、勢い余って、正面にあるトイレのドアに『ダンっ！』って当たって転ばずに止まった。



スゲーー。



もう、兄貴、必死だったと思う。


あきらめたら、頭から落ちて大ケガか悪くすると……


だからダメ元で、スゴいスピードの中、見えた段、見えた段に足を乗せていった感じ。



で、兄貴が着地したのを見て初めて


（ヤバいことしちゃった～）って。


で、兄貴に超仕返しされるだろうなって思いながら見てたら兄貴が振り返った。



その顔が…



もう、涙こぼれかけで、なのに口だけビミョ～に笑ってて、超ひきつってて


多分、わざとこの顔しようと思っても、できないだろうな、な顔。

で、その顔のまま階段上にいる俺に



『ぉお～まえぇ～、なにすんだよぉほぉ～～』

って超声が震えてた。

スゴく怖かったんだね、お兄ちゃん。


できれば前から顔見たかった。


その声聞いて、俺、大笑いしちゃって、そしたらなぜか兄貴も、大笑いした。


『お兄ちゃん、スゴかったよ！下まで４歩ぐらいだったよ！何段あかし、したの？！』


『数えてないよぉ～』

で、また二人で大笑いした。



お兄ちゃん、生きるために頑張ったね。


生還おめでと。





でも、それから兄貴、このことがトラウマになったのか、階段で俺が後ろに行くと、超ビビるようになった。