宝石

普段は絶対入ることもない 宝石店(正確には何と呼ぶかわからぬままであるが)に入った。



 妻と指輪を買いに行くためだ。



 こういうこととなると 僕はとんとダメだ。



 おしゃれということに気がまわらないわけではないのだが



 幼い頃から おしゃれにかかる現実的なものの意味合いで。

 

 生活が始まり たくさんの言葉を呑み込んでいるであろう彼女が

 

 笑顔でいてくれることが 順調の一番の指標なのだ。



 自らを飾るということを どこかで放棄したといっては聞こえはいいがヘアースタイルすら面倒で今は丸刈りにしているくらいだから



 自分では ずいぶんと場違いなところに来ていると思いつつも



 稼ぎの少ない上に 甲斐性ない夫である



 家計をやりくりした上での指輪なのである。



 これはもう彼女の御心の随になのだ。



 それで何軒か梯子をして



 三軒目で それまでとは違い 店員さんとのやりとりのテンポよく



 ためらいも見せずに 話が進んでいく。



 これは買うな!!と思ったら、案の定である。



 彼女の御心である以上は従うだけである。



 実は一番気になっていたお店だったそうで



 さっと買ってしまうあたりは 僕には決して出来ないことなのだ。



 嬉しそうな彼女であるが



 僕にはそれが一番の宝石なのだ。

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