PAWIEKにはゲットーで殺された若者や
子供たちの名前がパネルにしてあった。
羅列された名前は
肉親たちの記憶を呼び覚まし
訪問者にその人が存在したことを伝え
喪失がかけがえなのないものだと訴える
「ハンナ」とか「ヨセフ」とかいくらでもある名前が
そこにただ一人の存在だったことを
感じさせるのはなぜだろう
数十年後訪れた1アジア人にも
玩具、というよりは飾り物だが
石鹸入れのセルロイド箱を細工してつくった
ウサギやコオロギの細工物が
美しく黄金色に光るのはなぜだろう
そこで抵抗したものは魂を持った人間であって
生きることを楽しみ慈しもうとした者だった
書き残された名前と玩具は
そこに息づいた人間がいたことを示す
彼が乳白色の館内から屋外に出ると
薄い暗闇が広がっていた
石畳は冷たく光っている
しかし彼は何かを納得していた
これでワルシャワを去ることができる
197x年 秋
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