彼はワルシャワから列車に乗って東へ向かった。
その電車は座席が少なくて明かりも暗かった。
貨車を改装したかのような箱に
仕事帰りの人々が乗っていた。
みな無口で俯いている。
彼には昔見た幻燈の影絵のように見えた。
会社員か労働者かオフィスガールか
雑役婦かわからない人たちだった。
その魂の抜けた影は彼自身の学生生活に似ていた。
学生紛争の影響などというが
実は選んだ勉強自身のむなしさが中核をなしていた。
経済学
それは、人間活動を金銭や数量から見る
学問だった。標準化したモデルの人間たち
で社会を説明するものだった。
しかし、そこには血肉が欠けていた。
いつのまにか彼は現実感覚を失っていた。
科学や理論で数字や方程式で
世を見ることで彼は干からびていった。
銭湯に入ったときだけ自分が自分であることに戻った。
列車の音はゴトン、ゴトンと続いていた。
駅にとまるたびに通勤客は飛び降りていった。
彼の目指す駅に着いたとき
またしても雪が降っていた。駅の灯りのみがまあるく照らす
光の中に彼は数人の客と降りた。
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