収容所までに
彼の体は凍えきっていた。
ルブリん市内からのバスを降りたのは
自分ひとりでもう雪が降る午後であった。
雪の平原にその黒い建物しかなかった
鉄条網の間にある受付を抜けて
木造の倉庫に入ったとき
少しでも寒気がさえぎられてほっとしたものだ。
ここも無機質な空間、アウシュビッツと同じように
白黒写真と遺品が詰め込んだガラスケースがあった。
ただ気になったことを思い出した。
「ここはユダヤ人やコミュニストだけでなくポーランド人も殺された」
というがくせいの言葉だった。
彼らならば殺されてもいいのか?
以前ワルシャワで話した男が英語でジュー
というとき可逆的な笑みが混じっていた。
はじめに弱者を差しだし次に自分が同じ運命になった
哀れなポーランド達
1時間も中にいられなかった。
寒気は衿口から手首から入り込んでいた。
ジムノーワインを飲まなければ
耳が凍傷になるかもしれない。
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