鶴岡 深夜の飛行船

以前書いたかと思うが、



東北の山を歩いている時、道をゆずったり疲れて休憩していたりする時にしばし話しこんでしまうのはたいてい東北の人である。首都圏の人はよくて挨拶、多くは素通りである。



さて、この間のこと。



月山山頂まであと三十分くらいの最後の登りのあたりであろうか。向こうからかなり歩みの遅い二人の白装束姿の人がやってくる。朝も早い時間、しかもその日初めての白装束。



月山は参拝登山をされる方が多い。白装束姿のグループと昨年来すれ違うことはめずらしくない。


月は再生のシンボルであり、出羽三山から月山をへて湯殿山へ抜けること自体『死と再生』の疑似体験でもある。



故にこの山を参拝する人は後を絶たない。


その二人連れの白装束姿の人は、近づくつくにつれて背中の曲がったおばあさんと、その息子さんらしい年配の男性であることがわかった。背中が曲がった老婆は、神社で見かけることが時にある。たいていは階段一段上がるのにも難儀なされている。それを一段一段上らせるのが信仰の力というものであろう。



ここに来るまでかなり坂道が続き、時間は七時半前。見るところ一歩十五㎝くらい。杖をつきながら十五㎝づつ、ペースを乱さずに登ってくる。それにつきそう男性。死を間近に迎えた母の願いを聞き入れ、ともに参拝登山なされたのであろうか。



何はともあれ感慨深げな気持ちで近づいてくる姿を追っていた。


道を譲るために立ち止まっていると、あちらも少し疲れたのか話しかけてきた。


 どちらから?


 山頂の山小屋からです


 じゃあ、三時半頃、鶴岡の空を大きな飛行船が飛んでいたのを見ましたか?


 四時に起きたのですが、見られませんでした。
 

そこから、その飛行船の説明が始まるが、何か雲をもつかむような話で僕の理解力をこえていて多分に漏れず聞き流していた。



が、その話をしている息子さんらしき男性はまるでバカボンのパパを思わせる鼻毛の伸びよう。そこまで飛び出していることに無頓着でいた人を僕は知らない。



そのことのショックもあり、まさか宇宙船のこと?ってことはこのスピードでこの時間に三頂付近にいるとすると、一体夜の何時から山道を歩いているの?といった思考が錯綜しつつ、ほどよいところで切り上げて互いに目的地に向かった。



後で、そのことを嫁に話したら彼らこそ宇宙人なのではないだろうか?というあたりで落ち着いた。もし、見たといったらUFOにさらわれたかもしれないないから、見なくてよかったねということになった。

コメント

不適切なコメントを通報する

最新ブログ

食べること
休みの前の日
ポテチ
ポテチ