映画館。

なんか、俺がちっちゃい時に、父親が８ミリビデオカメラを持ってて。


今どきのとは違って、音は撮れなくて、映像だけのやつ。


撮影したら、写真屋さんに持って行くとテープにしてくれる。


丸い巻きテープ。


それをお家の映写機でスクリーンに映す。



何ヶ月かに１度、父親が映写会をしてくれる。



スゴい楽しみだった。



父親がスクリーンを壁にかけて、得意げに映写機を操作して、電気を消したら始まり、始まり～。


ｼﾞｰｰｰｰ…ｶﾀｶﾀｶﾀｶﾀ……


俺の幼稚園のお遊戯や、動物園に行ったときのもの。



スクリーンの明かりで、兄貴と母親の顔がボンヤリ見える。



見終わると兄貴がいつも同じからかい方をする。


『お前、こんな顔してたよな、ウィーー』


って、目が白目になるぐらい上に向けて、口を精一杯横にイーッ、って。


『そんな顔してないっ』


っていうと、今度は頭を座布団に付けて、座椅子の背もたれに寄りかかるように逆立ちして


『ほらほら、逆さまでウィーー』


うん、まず、逆さまになる意味がわかんない。


ほらほらって、俺、別にやってって頼んでないし。


で、ケンカになる。



その横で、父親が大事そうに映写機をしまう。


買ってきた時と同じ袋とケースに丁寧に。



多分、父親、この８ミリセット、スゴい頑張って買ったんだと思う。


子供ながらに自分のお家が、あまり裕福ではないなって感じてたし。


母親が、子供用の靴下にサイズのシールを貼って、袋に詰めるっていう内職をしてたの覚えてる。


一足、何円なのか知らないけど。




かけたスクリーンの横には、古ぼけたタンス。


タンスの上には、物入れに使ってるお菓子の缶やお針箱。


床には、俺や兄貴が散らかした服やオモチャと、母親の内職の山ほど靴下が入った段ボール箱。



座椅子の破れた背もたれには、母親がバスタオルをかぶせてピンで止めてある。


そこに兄貴と二人で座る。



得意げに映写機を操作する父親と、観客はたったの３人。



でも、俺にとっては、世界中のどんな立派な映画館にも負けない


宇宙一、素敵な映画館。





あ、電気が消えた。



静かに、静かに。



映画が始まるよ。





ｼﾞｰｰｰｰ…ｶﾀｶﾀｶﾀｶﾀ……








ほら、みんな笑ってる。