一回は一回。

オコチャマ中心に広まってる、無敵なルールだよ。


お返しの強さは決まってない、一回は一回。


もちろん、俺と兄貴も、ちっちゃい頃は、この終わりの無いバトルをしてた。



ちょっとでも兄貴に手とかが当たったら、兄貴がバシンッ、て叩いてくる。


『一回は一回だからな』


って。


で、叩き合いになって母親に怒られる。


そうすると、最後に叩かれたのが自分だと悔しいから、母親に見つからないように


手の甲を、ソ～っと相手の腕に触れさす。


それで、気が済む。


でも、相手がそれに気付くと、今度はソ～っていうやり合いになる。


で、結局、また叩き合いになって母親に怒られる。


『くっついてるからケンカになるんでしょっ離れてなさいっ』

って、離される。


そうすると今度は、口でやり合いになる。


『バ～〇』

『お前がバ～〇』

『そのまたお前がバ～〇』

『そのまたお前のお前がバ〇×100』


『それ、無しってこの前決めたじゃんか、なんで言うの～、もうお兄ちゃんバ〇×200』


って、また母親に怒られる。


そうすると、母親に聞こえないように、もう、声が出てるか出てないかぐらいで


『ﾊﾞ…』

だけ言う。

『ﾊﾞ…』

『ﾊﾞﾊﾞ…』

『ﾊﾞﾊﾞﾊﾞ…』

『ﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞ…』


も～～～う、いいよねっ。


母親がイライラしてた気持ちが、今ならわかる。



で、一回、兄貴と並んでお絵描きしてたら、兄貴が俺の手の甲にペンで、ピッ、って落書きした。


で、兄貴の方を見たら、もうニヤニヤして、超ムカつく顔してて


俺、無言で立って、自分の机から緑の極太マジック持ってきて


座ってる兄貴のＴシャツの背中に、上から下まで


ビーーーーーーッ


って、緑の極太線を書いた。



そしたら、兄貴が


『うわぁ～～』


って言って、Ｔシャツ脱いで、それを見て呆然としてた。


そして、俺に何も言わずに、ちょっと半泣きの力の無い声で


『お母さ～～ん…』


って出ていっちゃった。


なんか、俺、キャップの開いたままのマジックを持ったまま、ちょっと複雑な気持ちで立ってた。


（一回は一回だし…）






一回は一回の終わりの無いバトル。



一回で終わったのは、この時だけ。



しかも、兄貴に勝った。







でも、母親にスゲー怒られた。