四季たちの黄昏

冬がやってきた。
自慢げに小さく咳を吐いて、
白い息が冷えた空へ軽く舞い上がる。
冬は叫ぶ、
「気温よ下がれ、お前たちの出番は終わった。今は夏じゃない。お前たちは森の動物たちと一緒に冬眠するがよい!」
ぶつぶつと愚痴を言いながら、気温たちは引き下がっていく。
冬が肩を揺らして大いに笑う。

気温の1度が地球の真裏に全力疾走で駆け抜けて、
夏の元へ訪れる。
「夏さん。」
「どうした。1度。」
「僕は冬が嫌いだ。」
「俺も冬は嫌いだ。あんな暗い奴、相手にしなくてよい。さぁ、俺と一緒にエンジョイしよう!」
1度はよろこんで夏に溶け込んでいった。

別の1度は引きこもっている秋の元に向かった。
秋の扉をノックしても、返事は返ってこない。
何度も何度もドアをノックすると、
気力のない返事と共にドアが開いた。
「何か用?」
秋は顔色も悪く、何日も、いや、何か月もこもっているからだろう。
目が死んでいた。秋の瞳に映る1度はどこか寂しげに見えた。
1度はそんなことはないと、身震いをして、秋に尋ねた。
「ねぇ、秋さん。家に閉じ籠ってないで外に出ようよ。」
「しんどい。」
秋はそういうとドアを閉めようとした。
1度は慌てて、
「ちょっと、待ってよ。」
「なんだよ。」
秋は迷惑そうな顔を1度に向けた。
「君が出てこないと、冬が我物顔で地表の気温を下げてしまうんだ。夏と冬の間には君の存在が必要なんだよ。」
1度は必死に秋の必要性を語りかけた。
「俺にそんなこと、言う前に気圧に言えよ。俺なんて忘れられた存在なんだよ。もう、帰ってくれ!」
そういうと、秋は乱暴にドアを閉めた。
ガチャと鍵をかける音が響いた。
「ちぇ、なんだよ。」
1度は舌打ちをして、その場を離れた。

1度が秋の住む家を出ると、大きな音が近づいてきた。
「なにしょぼくれた顔してるんだよ!」
春だった。
「さては、秋を説得しようとしたんだろ。ダメダメ。もうあいつの出番は終わりだよ。」
と、春は高らかに笑った。
そんなに笑うことも無いじゃないか。
1度はそう思ったが口には出さなかった。
春は笑うのを止めると、真顔になって1度に話始めた。
「秋にしろ、俺にしろ、季節というやつは人間様には用がないんだよ。冬と夏さえあればいいのさ。」
「そんなことないと思うけど…。」
1度は小さな声で反論した。
「いいや、そういうことさ。俺たち四季は自然があってこそ、成立する1年と云う地球の周期と関係した現象なわけさ。でも、どうだよ。自然は破壊されて、地球上に無かった物質が大気を汚染して、俺たちのバトンを崩してしまった。冬と夏はいいさ、一方は寒さを保てばいいし、もう一方は暑さを保てばいい。その中立的なバランスを俺と秋は保たなければならない。でも、俺たちの出る幕はもうないようだな。親しかった山や海が死んでいるのを目の当たりにして、秋は引きこもってしまった。俺はこうして当てのない旅を続けなければならない。少数でもいい。俺を必要としている場所をもとめてね。しかし、そんな場所ももう無くなっちまったようだな。」
1度は反論できなかった。
春は弱弱しく笑って、
「これからどうするんだ。」
と1度に尋ねた。
「わからない。」
1度は正直に答えた。
「一緒に行くか?お前が居ると、とりあえずは他の季節と間違うこともないだろうからな。寒い春は俺はごめんだ。」
そういうと、1度を春の乗る乗り物へ導いた。
1度は春に大きくうなずいて乗り込んだ。
どこかで春の存在を見つけてくれることを祈りながら。

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